第26章 【キスミー番外編】9.5章
だが、ゆりなの声に、その思考を中断させられる。
『べつに、居なくても大丈夫だよ?』
「……あ?」
見下ろす横で、ゆりなはキョトン?と首をかしげた。
「……」
この表情を見る限り、こいつは何も考えずにこの言葉を発しているのだと分かる。
男の下心など知らないのだろう、爆豪はコクリと喉を鳴らした。
「だ、め…だ。」
ぎこちない返事になってしまったが
そう呟いて、携帯を弄る。
スクロールして探すのは、雄英高校近くのデートスポットだが
どこも大抵、足を運んだことがある上に、
どこでも、野次馬に囲まれて大変だった覚えしかない。
雑誌やCMに出てからというもの、半分芸能人のような扱いの彼女は、どこに行くにも不自由を強いられていた。
制服に重みを感じて振り向く
と、ゆりなの小さな手が、制服の裾を掴んでいる。
「……どうした」
『………』
何も言わなくてもわかる、
その指先はほんの少しだけ震えていて
野次馬たちに囲まれたのが、さぞ辛かったのだろう。
ほんの少し俯いた表情は硬い
「……ウチにすっか」
一度だけ、頷いたゆりなの手を握ってやると
ゆりなはパァっと顔を明るくして、へらっと笑った。
────ほらな、と心の中で思う。
大切にしたい。
大切にしよう。
決して、壊してしまわないように。
そんな思いを胸に、爆豪は手の中に収まった、ゆりなの手をそっと握りしめた。
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9.5章
fin
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