第8章 【現パロシリーズ】にじり口【轟焦凍】
鶯の季節も終わって、夏もすぎ
もみじ舞う季節が終わり、冬が来た。
もうすぐ通い始めて1年になる
この空気に離れてきたけれど、
レッスン中の先生の目がやっぱり怖い…
時々ギラりと光るような視線を感じるが
お姉様がたと話している様子をみても、そんなことはなくて
たぶん勘違いだとはおもうのだけれど…
レッスンが終わったらそそくさと帰っているからほとんど話したこともないのだけれど
彼にはどうにも慣れないでいた。
そんなある雨の日、授業中にスマホのバイブが鳴って
お姉様方の視線が刺さる中、私は外で電話を取った。
『もしもし?』
声が教室に漏れてはいけないので、少し離れたところの廊下を進むと、受話器から流れてくるのは旦那の声だった。
「あぁ、ゆりな?
ごめん、今日は迎えにいけないや…」
『え?迎えにこれないってなんで?』
「上司に呼び出しくらった
ほら、ボーリング大会、課長が体調不良でドタキャンしたらしくて…」
『そっか…じゃあタクシーで帰るからいいよ
その後飲みで遅くなるんでしょ?ご飯はいらない?』
「あぁ、晩飯はいいよ
じゃあ気をつけて帰るんだぞ」
『はーい、じゃ』
電話を切ってため息をつく。
雨の日に限ってこれは辛い。
教室に戻ろうと振り返ると、目の前に人が立っていて驚き、ゆりなはフラついてしまった。
転けないように腕を掴むその人物
『と…轟先生』
「悪りぃ、驚かせたな」
『授業中に抜けてすみません…
で、先生は…どうしてここに』
「あぁ、懐紙を取りに来た
忘れちまってたから…」
そう話す轟の手元には、確かに綺麗な水色の懐紙の束が握られている。
てっきり怒られるのかと思ったゆりな、安堵して硬かった表情をほぐした。
『そうだったんですね、じゃあ戻りましょうか』
ゆりなは轟の横をすり抜け、教室に戻ろうとしたのだが
それ以上前に進めず首をひねる
見れば着物の袂を掴まれていて…