第8章 【現パロシリーズ】にじり口【轟焦凍】
ただただ関心をしていると、レッスンの内容は実際にお茶を立ててみることに移っていた。
目の前に茶筅と茶碗、震える手で釜からお湯を汲み、茶碗に移す。
見た目には簡単だと思っていた行為すべて、実際やるとなると難しい。
『えっと…次は…』
もたついて茶筅を掴んだまま固まってしまう。
このままお茶を点ててよかった?
何も言われないから大丈夫なのかな…
茶筅を茶碗に突っ込んで、いつもお菓子を作る時、メレンゲを泡立てるみたいにくるくる回す。
「違ぇ、そうじゃない」
その声と共に、背中の後で着物のすれる音がする。
「前後に、手首を使え…こうだ」
耳の後ろで聞こえる声。
そして添えられた右手の冷たさ。
「そうだ…筋がいい」
褒められて嬉しくなって横を向くと、轟先生と視線が絡んだ。
優しい声とはバランスの悪いギラついた瞳…私は一気に頬が熱くなるのを感じ
茶筅から手を離して、触れられた手を引っ込める。
コツン…と竹の茶筅が陶器にぶつかる音が茶室に響いた。
「…悪りぃ」
『あ…す、すみません!』
レッスンの一環だというのに、意識してしまったことが恥ずかしい。
嫌な雰囲気になってしまうかと思ったが、隣のお姉様が「焦凍先生!私にも教えて下さい~」と助け舟を出してくれて事なきを得た。
初めて自分で点てた抹茶は、全く味がしなかった。