第6章 【太宰治】恋と革命【文スト】
裏社会に浸ってしまった幼馴染を見送っていると
「へぇ…えらく仲がいいもんだねェ」
と、異常なまでに軽やかなくせに
重々しさを孕んだ声に振り返った
『…だ、太宰さん』
「いつも、治さんって呼んでっていってるのになぁ」
ぷう!と頬を膨らませて怒っているんだぞ!と全身でアピールしてくる男
可愛いなんて思わない
だってこの男は私よりも5個も歳上なのだから
正直言って気持ち悪い。
『何の用ですか
って言うか、私の行くとこ行くところに現れないでください』
面倒くさそうに、どこもかしこも包帯だらけの男を睨むと
「いいじゃないか、
ゆりなの居場所が私の目的地だ
ところでさっきの男、どういう関係だい?」
いきなり、真面目な声で聞いてくるものだから
『別に、太宰さんには関係ないでしょう』
と少々突き放す物言いになった。
別にただ一言【幼馴染】と言えばいいのかもしれないけれど
中也はただの幼馴染じゃない。
彼の正体はポートマフィアだから、色々とバレてはいけないと隠した結果、そんな言い方になったのだが…
太宰は、食えない笑顔でニコニコと【笑う】
はずなのに
そう、いつもなら、ここでまた軽口なんて叩きながら
ニコニコ笑ってくれるはずなのに
ーー今日は違った。
ガッと腕を掴まれ、見上げた顔は全く笑顔なんてなくて…
その静かな怒気を孕んだ視線に
喉奥を絞められたような気分になる
「もう一度聞く、さっきの男との関係は?」
『……』
もちろん、太宰がかつて【双黒】と呼ばれた相棒を忘れているはずもなかったのだが
まさか中原中也と、この一見なんの特異もない女子高校生が知り合いで
しかもあんなに親しげに会話をしている事に、驚いていたのだ
否、驚きより勝っていた感情は、怒り…嫉妬の類の方が強い
太宰は何も答えないゆりなの腕を引き
ズカズカと横浜の街を歩いていく
『ちょっと…太宰さん!』
いくら呼びかけても返事は返ってこず
ゆりなはただひたすら引っ張られながら
なぜこの男はこんなに怒っているのか、疑問符を浮かべた。