第5章 【現パロシリーズ】cup of tea【物間寧人】
お酒の力がないと押せなかった番号が何コールか鳴り響く
「はい」という声を聞いた途端、切ってしまいたくなったけれど、その声の心地良さにうっとりとしてしまった。
「…ゆりな、さん?」
電話口から聞こえたのは私のことを確認する言葉
何も言っていないのに、私だとわかってくれたのには驚いた、
あんな風に電話番号を渡しまくっているのだろうと思っていたから。
『物間…くん』
タクシーの運転手さんに聞こえないような声で呟く、
別に聞かれても良いんだけれど…。
臆病な私は、咄嗟に声を潜めてしまった。
「連絡、待ってたんだよ?」
『うん…ごめんなさい
遅くなって
明日の昼にでも返しに行くわ、スターバックスでもいい?あの、交差点近くの』
ボールペンを返すだけだ、健全な場所を選んで伝える。
すると、
「ごめん、僕コーヒー飲めないんだ、
スタバの斜め前にあるカフェでもいい?」
『いいわよ』と短く答えると、安堵したような息が聞こえた。
「ゆりなさん、今外なの?」
『え…?何で?』
「いや、電波が安定しないから
こんな時間に外にいても怒られない?」
怒られるのは、旦那にと言うことでいいのだろうか?
名称を口にしないところが優しさなようにも感じた。
『あ…うん…今出張だから
友達と飲みに出かけていたの』
私もあえて名称を口にせずに答えると「そうなんだ」と楽しそうな声で返事が返ってきた。
「じゃあ、またね」
電話が切れる少し前にエンジン音が電話越しに聞こえた。
物間くんも出先なのだろうか。
前の車のテールランプが光るのを眺めながら、電話を切った。