第5章 【現パロシリーズ】cup of tea【物間寧人】
目が覚めた時、私はいつものつまらない人妻だったけれど
徐々にはっきりとしていく意識の中で罪悪感に包まれる
隣には物間くんはいなくて
一瞬でも幻だったのかな?って思ったけれど
そんなはずはない
一糸纏わぬ体と、股に感じる違和感
行為翌日特有の甘いダルさ
目覚めて何分間かシーツに沈んでいて感じたのは、もうこの部屋には物間くんがいないってこと。
別に恋人になりたいわけじゃないから、やり捨てでも構わない。
やっと起き上がってシャワーでも浴びようと体を持ち上げる
寝室を出ると窓のそばにある机の上にルームサービスのモーニングが置かれていることに気づいた。
焼きたてのクロワッサンの模様が綺麗。
いつか誰かが、クロワッサンの美味しさはその層を見ればわかると言っていたっけ。
食べる気は少ししか起きなかったけれど、用意してくれたのだったらもったいないと
ここにきて主婦根性がムクリと浮かんで席に座る。
机の上にメモが置かれていて、手に取ると
線の細い文字で書かれた電話番号と、
『忘れ物は…今度返してね?』
添えられた言葉の意味がわからず首をひねる
机の上を見れば、真っ赤なカルティエのボールペンが真っ白なクロスの上で、主張するかのように置いてあった。
なんで、私はこんなにも喜んでいるのだろう。
きっと嬉しいのは、
電話番号でも、とびきり美味しそうなクロワッサンでもない
つぎ、また会うための彼の残してくれたら「言い訳」だ。
喉を鳴らして笑うと、
コーヒーにゆっくりと口をつけた。
久しぶりに飲んだ黒い液体は、苦かった。