第5章 【現パロシリーズ】cup of tea【物間寧人】
住所を伝えるとゆっくりと走り出す車。
ブルートゥースで繋がったiPhoneから流れる曲はジャズだった。
『誰かに会う予定じゃなかったでしたっけ…?』
一番気になる質問をしたのは、大きな道路の信号の手前だ。
徐々に速度が落ちていく。
ここの信号はとびきり長くて、いつもイライラさせられるんだっけ…なんて思いながら
赤い光を見つめた。
『さっき買った口紅…
これから会う人に渡すって…』
「あぁ、コレ?」
物間さんは後ろの座席に手を伸ばして、さっき渡した黒の紙袋を取り出した。
そして、ボルドーのリボンを解くと
口紅を取り出す。
突然伸びてきた手がそっと頬に触れ、物間くんの方を向かされる。
赤い光に映る物間くんの顔は、やっぱりどうしようもなく理想的だ。
真新しい口紅が唇に触れて
私を新しく色付けていく
その色は、私も似合うとは思っていたけれど
少し年甲斐もないかと避けていた明るめの色だ。
「うん、やっぱりこっちの方が似合ってる」
おねがい、まだ変わらないで
いつもは遅くてイライラするはずの赤信号に願ったのは、
彼の綺麗に吊り上がった口元が
私の唇に重なったから
視界の端が、青に変わるまで
触れるだけのキス
ちょっと身を引けば、離れることも出来たのに
彼の指先は、私の左手に重なって
中指の指輪を、警告するみたいに撫でた。