第5章 【現パロシリーズ】cup of tea【物間寧人】
仕事が終わって、スタッフルームで制服を脱いで
ケータイ見ると、しーくんからLINEが届いていた。
今日は雪がひどくて帰れない、との内容と涙のマーク。
確かに、今日はひどい雪なようだった
入ってくるお客さんのほとんどが、頭や肩に白い雪を載せていたし。
私も帰れるかどうか分からない。
隣の、若者向けの化粧品を扱っている店の若いスタッフが
「今日、雪30センチ積もってるらしい!
電車もバスもやばいンだって!」
「まじ?ダル…帰れないじゃん」
と話している。
いよいよ私も帰れないかもしれないな…近くのビジネスホテルが空いてればいいけれど。
返したメッセージに付けた、涙の絵文字は、本心ではない。
従業員入口から外に出ると、目の前に、絶対いるはずのない人がいて
一瞬、幻覚かと思った。
「やぁ、ゆりなさん」
『…物間くん』
彼が私の下の名前を呼んでくれたことがひどく嬉しかったけれど
それよりも、なんでここにいるの?という思いが強い。
『どうされたんですか?』
思わず駆け寄る、肩に積もった雪を払いたい衝動に駆られたけれど、自分から触れることをためらってしまう。
そんな私の心中を知ってか知らずか、物間くんは私の手を取ってすぐそばに止まっているシルバー色の車に誘導して右のドアを開けてくれた。
「雪、酷いからさ
送っていくよ」
『え…』
乗せられた車内は暖かく、いつも日本車にしか乗っていない私からしたら、右側の助手席からの景色はひどく新鮮に見えた。
きっと、外車のせいだと思いたかった。
こんなに窓からの景色がキラキラ見えるのも、胸がひどく高鳴るのも。