第5章 【現パロシリーズ】cup of tea【物間寧人】
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旦那を送り出したゆりなは、鏡台に向かい顔を作って行く。
今日は6時までのシフトだ、
最後の仕上げに塗りあげた口紅は、今一番売り出しているベーシックなもの。
別にこの色が似合うわけではないけれど、イチオシだから塗っている、ただそれだけ。
デパートの美容部員が私の仕事だ
海外コスメの並んだカウンターで、ニコニコ笑顔を作りながら立ち続ける。
午後5時をすぎた頃に、今日の締めの作業を少しでも始めようとパソコンに向かっていると、人影が目の前で動き視線を上げた。
『ぁ……』
「こんにちは」
ニコリと愛想の良さそうな笑顔を向けるのは、昨日の大学生…名前は、忘れるはずがない。
物間寧人くんだ。
キャメル色のコートに千鳥柄のマフラーが良く似合う。
『…えっと……』
もう二度と会えないと思っていた人が目の前に現れてゆりなは軽くパニックになっていた。
彼の顔を見た途端、初恋のように頬が染まって行くのを感じる。
ゆりなは慌ててその顔を隠すかのように俯き、パソコンを閉じて
通常の接客のように対応する。
『何かお探しですか…?』
「この後会う女性に、軽くプレゼントをしたいんですけど、口紅なんかいいかなって」
笑顔のまま答える彼に、私の心は粉々に崩れた。
小さく芽生え始めていた恋心の存在に、その時初めて気付く。
確かに、彼女はいないと言っていたけれど
好きな子とか、いい感じの子が居ないって言われたわけじゃない。
これだけかっこいいのだ、彼女なんて作らなくても女なんて湧いて出るほどいるのだろう。