第5章 【現パロシリーズ】cup of tea【物間寧人】
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つい二時間前のことが夢だったかのようにぼんやりとして、ビーフシチューを煮込む手は
ただ機械的にくるくると回っていた。
チャイムが鳴って、火を止める
旦那が帰ってきたようだ。
ドアを開ければ、優しい顔をしたツリ目
可もなく不可もなしという言葉がぴったりな優しい旦那だ。
「ただいま、ゆりなちゃん」
『お帰り、しーくん』
私の夫、
尾白猿夫(おじろま しらお)はごくごく普通の会社員。
努力家の成績優秀で、人当たりの良さから上司にも部下にも大切にされていると思う。
小中高大と柔道部、体格は少しゴツめで
性格は淡白だ。
好みかと言われたら、うーん…そんなに。
いい人だし、絶対浮気はしなさそうだし不満はない。
机に並んだ食事を口に運んで
「うん、美味しいね」と微笑んでくれる。
この人とのこんな普通の時間を過ごしていると、やっぱり今日の出来事は夢かなにかだったような気がしてきてならない。
ピクリとも変動のない、心臓音に日常が巻き戻っていく。
皿を洗っている間に、風呂から出てきた旦那の後に風呂に浸かる。
上がった頃には、もう寝室で寝息を立てている彼の横に無言で横たわり。
薄っすらと月明かりに照らされる左手薬指の指輪を眺めながら、
静かに眠りについた。