第14章 【文スト】運命を見つける60秒間【江戸川乱歩】
「嬉しいな、ボクも君のことばっか考えちゃってたからさ
ねね、これが所謂両想いってやつなのかな?」
コロコロと飴玉を口内で転がしながらその音と同じように軽い笑顔を向ける。
店員はニコリとだけ笑って返事をする
まるでそれがマニュアルかのように。
『せっかく来ていただいたのに申し訳ないんですけれど、もう今日は閉めようと思っていたんです』
「うん、だから来たんだよ?」
ピョン!とショーケースから飛び降りるとふわりとケープが舞った。
乱歩が何を言いたいのか分からずにゆりなは首をかしげる。
「ゆりなさん、誕生日おめでとう」
体に隠れていた左手が差し出したのは一輪の赤いバラ
『……え?』
ゆりなは咄嗟に受け取ってしまったが、顔を真っ赤にして乱歩を見つめた
『なん……』
(なんで知っているの?)と言いたげな視線は、動かない口ほどにモノを言い
乱歩は一歩歩み寄ると、にっこりと新月のように釣り上げた口角でゆりなに笑いかける。
「言ったでしょ?僕は名探偵だよ?
ゆりなさんのことなら、なんだってお見通しなんだから」
ポカン、と呆気にとられていたゆりなだったが、重ねられた唇にさらに目を大きく見開いた。
靴の爪先通しがコツンと当たると、ゆりなは自分の身に起きたことに気付き、フラついて乱歩から体を離す。
「…柔らかいね、キス
僕初めてしたよ」
10センチ上の瞳がゆっくりと空いて
綺麗なエメラルド色の瞳がゆりなを捕まえた。