第14章 【文スト】運命を見つける60秒間【江戸川乱歩】
8時閉店のこの店で雇われ店長を初めて3年。
お抱えのお客様はなぜか異能力者の人が多くて…1番の太客は、福沢諭吉さん。
探偵事務所をしていると言っていたけれど、今日来た男性二人は社員だろうか?
片方の銀髪の方はそうは見えなかったけれど、もう1人の帽子にメガネの方はいかにも探偵さんのようなケープを羽織ってらしたし。
異能力の名前も【超推理?】と言っていたっけ…
この仕事をしていると、冗談で告白される事は多々ある。
バレンタインやクリスマスは特に。
「お姉さん、こんな日にまでお仕事?独り身なの?俺と付き合わない?」
いつも笑顔で流して終わり。
店の外に出てしまえば、彼らも私のことなど微塵も思い出さないだろう。
古い形のレジはチン!と綺麗な音を立てる。
あの万年筆は、以前福沢さんにお話したら欲しいと言っていたものだった。
今日入荷したお知らせを電話しては見たけれど繋がらなかったのを、あの二人がお買い上げしていかれた。
(今日の人……超推理…すごいなぁ)
福沢さんの欲しいものを当ててみせるなんて。
もう何年も通ってくださっているが、彼の方の好みは奥が深くてわかりにくい。
もう一度、チン!と音を鳴らして空っぽになったレジは閉まる。
「ねぇ、今ボクのこと考えてたでしょ」
『!?!』
突然話しかけてきた男の声に、店員は目を丸くした
『あ…!さっきの……』
ショーケースに頬をつく乱歩はニコニコと猫のような笑みでゆりなを見つめると、するりとガラスのショーケースに横乗りになる。