第14章 【文スト】運命を見つける60秒間【江戸川乱歩】
程なく歩いたところで、敦が乱歩に話しかける。
「店の目星とかってつけて歩いてます?」
「いや、全然?」
「ええ…」
再先不安しかないこの任務?に敦はため息を吐く。
「そもそも社長がいつもどこで服とか買ってるかも誰も知らないしねー」
「そうなんですか!?」
なら益々社長の好みのプレゼントを探すなど難解だと頭を抱える。
「まぁでも、5分で済ませてみせるよ
なんてったってボクは名探偵だからねぇ」
ニヤリと口角を上げ、胸ポケットからこれみよがしに取り出した眼鏡。
片手でチャキッと開くと、ゆっくりと目元に近づける。
「異能力ーーーーー【超推理】!!」
そう唱えて刹那、乱歩は敦の腕をむんずと掴むと、横浜の街をズカズカと歩き進んでいく。
「え?ちょ!乱歩さん!!!」
右に曲がり、まっすぐ進むとさらに左に曲がる。
その角の三件先の店に、乱歩は吸い込まれるように入っていった。
入ったのは、いかにも高級そうなブティック。
敦は自分と到底無縁そうな空間に腰が引けるが、乱歩は腕を掴んだままガラスケースをメガネ越しに覗き込み…
「これだ、社長の欲しいものは」
と、自信満々に万年筆を指さす。
「そちら、本日入荷したばかりなんですよ」
「へぇ、そうなんですか」
話しかけてきてくれた店員に返事をしながら敦は、何も物言わぬ乱歩に目を向けたのだが…
目の前の男は今まで見たことがないほど目を開き店員に釘漬けになっている。
「そちらの作品はいつも一点の身のデザインで作られていまして、やっと新しいものが入ってきたばかりなんですが…
よろしければショーケースからお出ししましょうか?」
「結婚しましょう」
乱歩の発した一言に、にこやかに白い手袋を嵌める店員の表情がカチッと固まった
ーーーん?何言ってんだこの人?
敦と店員の意思は完全に一致したと思う。
だが、その疑問符の現況たる江戸川乱歩は、全く自分の発言に間違いなどないかのように
もう一度ゆっくり繰り返した。
「ボクと結婚しましょう」
今度はあろうことか、彼女の手袋に包まれた手をしっかと握ってほざき始める。
敦は、何も言わずに二人の間に割って入り、乱歩を店員から引き剥がした。