第10章 【現パロシリーズ】orange【相澤消太】
相澤はため息をついて、椅子に浅く座る。
「口付さん。
我々教師は、生徒の抱えている不安や問題に気付いて
できることなら取り除いてやる…くらいの手助けしかできない
貴方がここで『何もない』と言うなら
強要して聞くこともできない」
『………』
ゆりなは手元の水の入ったペットボトルを強く握る。
ベコっと音が2人しかいない教室に響いた。
『…主人とは……』
ゆりなの声に、相澤は目を上げた。
精一杯、絞り出すように話し始める女は、焦げ茶色の髪の毛を耳にかけながら俯く。
『職場恋愛で結婚しました……
上司で……すごく優しい人でした……』
『でも、結婚して、すぐ……
なんだか、言葉遣いが、乱暴で…
仕事も、主人に言われて、辞めたのに…
働いてない、家にいるから視野が狭い…ダメな人間だと
毎日言われてます』
典型的な、モラハラだと相澤は思った。
まだ続きそうなその話に、何も言わずに耳をそばだてる。
『……主人が家に、帰ってくるのは
週二回…一回くらいです
元同僚からは…昔の後輩と不倫してるって連絡が来ました
別に、それはいいんですけど』
なぜか笑う女は痛々しい笑顔のまま水をまた飲んだ。
「大体わかった」
バリバリ頭をかき、くじをひねると骨がポキっと鳴る
「もう1ついいか?」
いつの間にか崩された言葉に、ゆりなはゆっくりと視線を持ち上げた。
その目は、何かを諦めきった、死んだ目だった。
「今日の気温は36度だ…猛暑だよな」
『はい…?』
なんでここに来て天気の話なんてするのだろうか
ゆりなはますますわからなくなる目の前の男を見つめる。
窓を見つめていた男の目は、射抜くように自分に向けられ
ピクリと心臓が跳ねた。
「なんで、そんな猛暑日に
長袖、ハイネックなんだ?」