第10章 【現パロシリーズ】orange【相澤消太】
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オレンジ色に染まった教室のドアを開けると、ガラガラと大きな音がした。
(このドアもガタがきてるな…)
あとで治すか、と考えながら視線を持ち上げると、呼び出した生徒の母親と目が合う。
「お待たせしました」
そう言うと、母親は首をひねって不思議そうにこちらを見ていた。
軽く自己紹介をすると、驚いた声を出したが
どうしたのかと聞いても『何でもないです』と俯くだけ。
こんなに暑いのに、真っ黒なハイネックの長袖を着ている女は
持ち主が季節を忘れてしまった人形のようだとおもった。
いろいろと思うところはあるが、本題を話さなければ進まない。
机から取り出した絵を再度見て思う。
(どうなったらこんな絵が描けるんだ…)
小学3年生の担任になって、もうすぐ半年。
この絵を書いた口付哉太はクラスのムードメーカーの1人
はしゃいだりするタイプというよりは、嫌な雰囲気になったり、喧嘩が始まると、そっとクラスをまとめて良い雰囲気に持ってく。
放課後の少年クラブではサッカーに打ち込み
勉強は、さんすうが得意でこくごが苦手。
思いやりがあって、いい生徒だ。
モカ色の綺麗な瞳は、目の前いる母親譲りなのだろう。
「この絵は…『かぞく』を書こうという授業で哉太くんが書いたそうです」
母親は震える指先で絵を受け取り、机に載せる。
そりゃ無理もない。
こんなものを自分の息子が描いたと知って、平然としている親なら報告物だ。
口付さんは、ふぅと自身を落ち着かせるように息を吐いて
カバンから取り出した水を飲む。
「見てください、お父さんの大きさが半端じゃあない
紙からはみ出す勢いで書いてる
で、口が書かれてない…これがかなたくん
お母さんがこれですね、すみっこで泣いてる…
ご家庭で何が起きているんですか?」
口付さんはもう一度水を飲み込むと、
首を横に振って
『何も……』と消え入りそうな声で呟いた