第8章 【現パロシリーズ】にじり口【轟焦凍】
ゆりなは震える手で鍋を取り分けた。
茹だって表面に登ってきた鶏肉のつみれは、地獄の釜で煮られる肉片のように気泡に踊らされている。
『どうぞ…っ!』
突然の痛みに顔を歪めるゆりな、机の上に置いた時、うまく置けなくて手に煮えた鍋汁が、かかってしまったのだ。
「大丈夫か?」
そう心配して、手を取ったのは、旦那。
『あ、うん…』
「そそっかしいなぁ、うん、火傷はしてないけど…冷やす?」
旦那は、ゆりなの小さな手を握ったままため息をついた。
『大丈夫、水少し当てるから
取り分けてくれる?』
ゆりないそいそとキッチンに逃げ込み痛む皮膚に水をかける。
「すみません、轟さんお着物汚れませんでしたか?」
旦那は轟に向きなおると、一瞬その瞳にヒヤリとした。
敵意を含んだ視線は1秒にも満たなかったが、その憤懣は鈍感な旦那であったとしても確かに感じることができた。
が、次の瞬間には穏やかさを取り戻した轟に男は【気のせいか】と飲み込む。
「そういえば、お手土産に頂いた酒開けませんか?」
旦那は轟の持って来たぶ厚目な紙袋から一升瓶を抜き取ると、ラベルに目を通す。
「いやぁ、いい酒ですね
なぁ、ゆりなグラス持って来てくれ」
『…え?お酒飲むの?』
狼狽して答えるゆりなに旦那はいいからいいからと笑うと、轟に向き直り
「轟さんも明日はお休みだと仰ってたし
よかったら泊まっていかれませんか?狭い家ですけど」
ゆりなは、たまったものじゃないと
キッチンから止めに入ろうとするが、その前に「いいのか?」と轟に答えられ、呆然と目を見開く。
その姿を轟は前髪に隠れた瞳で覗き見てクスリと笑った。