第8章 【現パロシリーズ】にじり口【轟焦凍】
『い、いえ…お客様に、そんな…』
声が上ずってうまく話せない…こんな反応をしてたら旦那に気付かれてしまうのに
キッチンカウンターから、旦那の姿を確認しようとしたら、さっきまで座っていたはずの場所に居なくてパニックになる。
「ご主人なら、DVDを探しに奥の部屋に行ったぞ
趣味が合ってな、アメコミ原作の映画…俺も好きなんだ
オススメを見せてくれるって」
轟先生が私にしてくるのは、当たり障りのない会話内容なのに
彼の手は私の手を握って離さない。
カウンターの下だとはいえ、なんてことをしてくれているのか
『やめ…て、ください…
何が目的なんですか』
そう問えば、轟先生は首を捻って、眉を顰める。
「目的?
別に、俺はゆりなが好きなだけだ」
さっきまで口付さんって呼んでたはずなのに、耳元で私を呼ぶ声は、あの日と同じように名前を囁いた。
「ありましたよ、コレですよね」
突然聞こえた旦那の声に、心臓がバコン、と音を立てる。
「あぁ、それだ、後で見てもいいか?」
平然と返事を返しながら、まだ握られたままの手。
どうにかバレないように振りほどくと、轟先生は袂から取り出した細帯で袂をたすき掛けし、包丁を掴んで白菜をザクザクと手際よく切り始めた。
旦那はこちらを不審がることもなくDVDデッキと向き合っている。
これは、悪夢なんだろうか?
それなら早く目覚めて欲しい