第8章 【現パロシリーズ】にじり口【轟焦凍】
揺らめくコーヒーの湯気に、彼女は「ふーん」とだけ返事をした。
『ふーん、じゃなくてさぁ…』
急かすように答えを欲しがるのは
目下の悩みをあくまで【知り合いの話】として打ち明けたからで
彼女の突き刺すような視線が、すべてお見通しだと言っているような気がしたけれど、【知り合いの話】を貫きたい私を思いやってか何も言わずにケーキにフォークを通す。
「まぁ、旦那に多くを求めすぎだよね」
彼女の言葉に私は首を捻る
『旦那?』
「うん、だってさ
話聞く限りだからアレだけど
その【知り合い】の人
旦那に相談したいけど、旦那が鈍感で気付いてくれないから、できないんでしょ?」
『あ…うん』
「その人はさ、気付いてくれないから相談しないんじゃなくて
旦那が、受け止めてくれるか不安だから相談しないんだと思うよ。」
目の前の友達の言葉が冷たい氷の刃のように胸の先を突き刺す
でもまだ薄い皮膚を指して少し血が出ただけだ。
私の反応を確かめるように視線を持ち上げて彼女は言葉を続ける
「旦那さんが、どうした?大丈夫か?何かあったのか?俺に話してごらん、なんでも受け止めるし怒らないしなんでも許すよ?って
言ってくれたら相談するって言ってるようにしか、私には聞こえないけど」
グサリ、音を立てたのは私の胸なのか、手元のケーキなのか。
フォンダンショコラの中身から
血が流れるみたいにドロりとチョコレートが流れた。