• テキストサイズ

【雑多作品置き場】short story

第8章 【現パロシリーズ】にじり口【轟焦凍】




景色は私の知ってるものとは違うものになっていく。

深い緑色に包まれていく窓の外に少しだけ首をひねった。


『あの…ここって』


「ここを抜ければ、隣の市に抜けるんだ」


『そうなんですね』



日のしずんだ街頭のない山道
車のヘッドライトが頼りなく揺れる。
無言の車内で窓の外の闇が迫り来るような重さを感じた。

『きょうのお茶菓子…』

あまりの重さに耐えられなくなって、口を開いたのは私の方。

先生は視線を動かずにこちらの話を聞いている。

『段菊の生菓子なんて珍しいですよね
先生ってどこで買われてるんですか?
いつも季節と違う珍しいものが多いなって…


この間なんて秋なのにアネモネで
ジギタリス…あと…』


「マリーゴールド、夕顔、月下香…ニゲラ
全部、特別に作らせた」



重ねるように低く響いた声に、何故か心臓が跳ねる。

車は、ゆっくり揺れて路肩にとまり、ヘッドライトが消えた



「全部、特別に作らせたものだ

お前の…ゆりなの為に」



下の名前で呼ばれて、背中に汗が噴き出す。







何…

怖い……






伸ばされた右手が、そっと頬に触れた。


左手が、シートベルトのボタンを解除した音が




シュルリと耳の隣で聞こえた。









もっと遠くで雨が車を打つ音がして。









先生の息遣いが、唇の上で聞こえた。






/ 261ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp