第9章 乱離骨灰【ラリコハイ】
亥の刻、俺は天主の中に独りで居た。
信長様との為に用意された真新しい褥の傍らで膝を正し、心静かに二人を待つ。
そう刻を置かずしてからりと開いた襖の向こうから、湯浴みを終え夜着を纏った信長様が同じ様に寝間着姿のの手を引いて入って来た。
俺の存在に気付いたは当然の如く目を見開いてから、不安さを顕に信長様を見上げる。
「大丈夫だ……。」
その不安を取り除く様に、優しくの頬を撫でる信長様。
「光秀の存在など気にする事は無い。
路傍の小石だとでも思っておけ。
貴様は……俺だけを見ておれば良いのだ。」
そのままの唇を奪い、ねっとりと舌を絡め始めた。
天主にはくちゅくちゅと微かな水音だけが鳴り続け、そこにしゅるしゅると衣擦れの音が加わる。
信長様の手が立ったままのの腰紐を解き、寝間着をするりと滑り落とせば……
晒されたのはあの疵痕塗れの白い裸体。
俺はどうしても目が離せず、小さく喉を鳴らした。
の咥内を貪る事を止めた信長様の両手はその細い肩に添えられ、そっと押して二人の距離を拡げる。
そしての頭から足先まで舐める様に視線を這わせ
「……美しい、な。」
堪らないと言った様子で感嘆の呟きを漏らした。
どう鑑みた所で『美しい』と称するには値しない疵痕塗れの身体。
それが信長様の目には何よりも神々しい程に美しく映っているのだろう。
ここでもまた『貴様など生涯俺に敵う筈が無い』と信長様の嗤笑を叩き付けられた気になる。
「ああ……どれ程貴様に触れたかった事か。
、今宵は少々長引いて仕舞うぞ。
覚悟しておけ。」