第8章 常住不滅【ジョウジュウフメツ】
軽く俯き、速度を上げて思案を巡らせる俺に
「光秀……礼を言う。」
再度、信長様の穏やかな声が掛けられた。
そしてもう俺は思考を停止させる。
信長様の声色と表情から、それは正直に受け取って良いのだと……
心からの謝辞であると気付いた。
どんな手管であったにしても『生きた』を信長様に見せられた事を誇る可きなのだ。
「有り難き御言葉、痛み入ります。」
だから俺も素直に頭を下げた。
「貴様は俺の何よりも大切な物を護った。
何か褒美を与えねばならんな。
欲しい物を考えておけ。」
「欲しい物など……」
そこまで言って俺は言葉を止める。
『今』の俺には、たった一つだけ望む事があった。
「では……
俺の所願を叶えて頂けますでしょうか?」
「所願?
何だ……言うてみよ。」
俺は信長様の目を真っ直ぐに見据え、そして告げる。
「信長様との睦事を、目前で拝見させて頂きたい。」
これには流石の信長様も驚きで目を見張った。
しかし俺だとて戯言を言っている心算も、巫山戯ている心算も無い。
本気だ。
そんな俺を見つめる信長様の目が僅かに歪み、
『貴様は何度も天主を覗いたであろう』
そう責めている様に見受けられた。
だが俺は……『目前』で見せてくれと言っているのだ。
こうして暫くお互いに牽制する様な視線を絡ませた後、信長様はふっ…と息を吐く。
「相分かった。
今宵、天主に来るが良い。」
「………有り難き、幸せ。」
俺は再度、そして今度は深々と信長様に向かって頭を下げた。