第7章 一寸丹心【イッスン-ノ-タンシン】
「あんたはさ……
信長が戻って来る方が良いの?
それともこのまま居なくなっちゃえば良い?
どっち?」
男の言葉に俺の鼓動はどくりと高鳴る。
此奴は俺の何に気付いているのか?
いや……
此奴は何時からこの天主に居た?
それでも俺は普段通りに平静を装い、微笑んで見せた。
「意味が分からんな?
我が主君なのだ。
戻って来て貰わねば困る。
信長様を失えばこの安土は終いだ。」
「ふーん……」
男の不躾な視線は何もかもを見透かしている様で、堪らなく居心地が悪い。
「俺はさ……
正直、別にどっちでも良いんだよね。
俺が仕えるのは生涯信玄様だけって決めているし、
信玄様さえ意気軒昂なら織田がどうなったって知ったこっちゃねーよ。
唯……此奴はそーじゃねえんだろうな。」
そう言って褥の傍らに屈み込んだ男の柔らかい視線が眠るに注がれる。
「信長が居なくなったら此奴、どーにかなっちまうよな。
死んじまうかもしれねーよな。
全く……厄介な男の手に堕ちたもんだ。
選りに選って、あんな日ノ本中から首を狙われる男じゃなくたって良いのにさ。
でも……此奴だけは死なせたくねえ。」
優し気だった男の目に強い光が滾り出し、そしてその目は突然俺を見上げた。