第3章 ここから始めて
会社の前で深呼吸を一つ
「元彼に会っても大丈夫?」
『大丈夫大丈夫、殴ったりしないよ』
「そうじゃなくて……」
電気くんが手を握ってくる
「咲良は、もうオレのだから
寄り戻したりとかしないでな?」
上目遣いに困った顔、不覚にもときめいてしまった私は焦ったように手を離した。
『し、しないしない!
それにあっちも、そんなの望んでないよ』
「じゃあ、オレここで待ってっから」
会社の前のガードレールに腰掛けて手を振る電気くん
一人で行くより幾分か心強い
あんな事があった、昨日の今日に元婚約者に会うのはキツいし
できれば一生会いたくない
出くわしませんように…と祈りながら総務課まで向かった
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
〜総務課~
『少し予定より早くなってしまいましたが、本日いっぱいで辞職させて下さい。
勝手を申し上げているのは重々承知ですが、よろしくお願い致します。』
人事担当に頭を下げるが、頭上でしたのは焦った声だ
「やけに突然だな、来月には元々やめるよていだっただろう?」
『はい…』
「寿退社だし、結婚相手の斉藤が、嫁には家庭に入ってほしいって言ってたとかだったよな」
『……はい
ですが、それとは関係なく
本日をもって退職させて頂きたいんです…』
「関係なく?」
『……結婚自体がなくなりましたので』
「理由は…聞かない方が良いか?」
『………すみません』
「まぁ、元々のやめる予定だったんだ
引き継ぎも出来ているし業務的には構わないが…
君が、『元婚約者の営業部の齋藤と気まずいからという理由で辞める』というなら
齋藤より、君の方がずっと仕事もできるし努力家だ
斎藤をどこかの支店に送ってやることも構わないが
残ってもらえないだろうか?」
『すみません』
こんなに私を買ってくれていたのだと分かり
目尻が熱くなった、望んで入った仕事だ、やめたいわけじゃない、でも
『心機一転、全てをやり直したいんです
勝手を言って申し訳ありません…』
「そうか…
わかった
会社としては惜しい人を無くす事になるが、これは受理しよう」
『ありがとうございます
本当にお世話になりました』
精算できた、これでもう、同僚でさえなくなったんだ…