第16章 御都合主義の個性さん2
『……………』
目を見開いたまま、フリーズしてしまう
どうしよう、なんて答えたらいいかわからない
なんでこのボールペンが電気くんのだってバレてしまったんだろう
いや、それよりも何か答えなくちゃ
『ち、ちがいますよ』
ニッコリと笑顔をつくって答えると
相澤先輩は瞬きすることなくわたしを見つめる
「このイナズマ柄のチャラチャラしたボールペンは
上鳴が持ってたと思うんだが、ちがうのか」
『ちがいますって、私の父のですよ』
ボールペンを受け取り、すぐにペンケースに戻す
「なぁ、咲良」
すぐその場を去ろうとしたけど、相澤先輩に手を握られ足を止める
冷や汗が背中を伝う
『は、はい…』
「お前は1つミスをした」
『へ…?』
「俺がこれは上鳴電気のだよなって聞いた時に、『ちがいます』って答えたよな」
『は、はい』
「そこの答えは
『上鳴電気って誰ですか?』が正解だ」
『………!』
意味を理解して、血が引いていくのがわかる
たしかにそうだ、一般職員のわたしが、上鳴君を知っているはずがない
知らない人の名前を出されたら、自然な会話なら
『それだれですか?これは私のですよ』になるはずなのに…
ヒーロー科なんて付き合いがないのがうちの部署
生徒と関わることはほぼ無い
あってもサポート科くらいだけれど、名前を覚えることもない
私はかまをかけられたのだ
「じゃあ、上鳴との関係を教えてもらおうか…」
『それは……』
ジリジリと近づいてくる相澤先輩
『ごめんなさい!』
先輩の横をすり抜けて走る
こういう時は逃げるが勝ち、一旦逃げて、電気くんにバレたことを言わなくちゃ…
走りながらスマホをポケットから出し、電気くんの連絡先を探す
走りスマホは絶対ダメです
だってほら、前が見えなくて
「うわ!ちょっ!!!」
『へ?!』
どんー!!!!と大きくぶつかって、
目の前にいた女の子と唇が重なる
私はそのまま、意識を失った