第10章 君の知らない○○
「いくぞ」
と声をかければ、ランチラッシュにお辞儀して俺のところに駆け寄る咲良
広い広い学内を回るのに、3時間以上かかったが
あっという間に感じた
「なにか分からなかったことはあるか」
『ひ、広すぎて…何がなんやら…
でも、頑張って覚えます』
「学内では個性を使うのが職員には許可されている
まぁ、咲良は個性と仕事関係ないけどな」
『まぁ、そうですね』
こいつの個性は製花、手から花を生み出す
「毎日、うちの教室に飾る花も頼む」
『え、私の個性おぼえててくれたんですか!』
「あぁ」
『何が出るかわからないですけど…いいですか?』
別に教室に花を飾る意味はないが、ただの口実だ
毎日、会うための
なんて非効率的な感情
生徒の友達ごっこや茶番を諭せたものでは無い
咲良の両手から花が溢れだしてくる
白やピンクの色づいた花束が出来上がった
「これは…?」
『ニコチアナです、タバコの原料、ニコチンが入ってる花ですね』
咲良に花束を手渡される
「この部屋が備品管理室だ、俺はここで」
『相澤先輩、お忙しいのにありがとうございました』
「明日から毎朝職員室まで花を持ってこい」
そういって頭をぽんと叩くと
『はい!』と笑顔で返事をしてくる
1人職員室までの廊下を歩きながら、咲良に受け取った花を見つめる
昔と変わっていなければ、この花の花言葉が
今のあいつの心情だ
ニコチアナと呼ばれる花の意味を検索する
「秘密の恋、あなたがいれば寂しくない」
思ったより…な意味に携帯を落としかける
これは………期待していいってことか
小さな花に問いかける
これは俺に向けての意味か?
それとも違うのか?
答えるはずもない花が小さく揺れた
教室に戻り、花瓶に突っ込んだ花を隅に置く
明日はどんな言葉が来るのか
楽しみに感じている自分が、自分ではないように感じる
俺も咲良の事になると変わってねぇな…
そう思いながら授業を始めた