第8章 他人様の言うこと
「だから、プロポーズするのも、婚約するのも
ちゃんと責任もってやんなさい
母さんと父さんはあんたが選んだ人と幸せになればいいと思うから
あとは1人の男としてきちんとすればなんの文句もないよ」
予想外の言葉に顔を上げると
お母さんと目が合った
「出来の悪い息子ですが、よろしくお願いします」
私は首を何度も横に振る
『私の方こそ…よろしく…お願いします』
泣かないと決めたはずの涙が
どうしょうもなく流れた
電気くんがそっと手を握ってくれるけど、俯いたまま顔が上げられない
程なくして、お父さんも帰ってこられて
泣きながらのご挨拶になった
その後みんなでご飯を食べに出かけ、お店の前で別れた
「な、大丈夫だっただろ?」
2人の小さくなっていく背中を見ながら電気くんが言う
『お母さんの男気のお陰としか言いようがないよ…』
絶対反対されると思ったし、それでも仕方ないと思っていた
こうして今2人で立っていることでさえ奇跡のように感じて…
指と視線が絡み合う
目の前の彼のことが、どうしょうもなく好きだ
細く整えられた眉毛も、メッシュの入った金髪も、それの同じ瞳の色も
いつも笑っていてくれることも、やんちゃそうな表情も
全部が私を好きにさせるためにあるみたい
「今何考えてる?」
返事の代わりに両手を目の前に差し出す
すると、両手いっぱいの紫のすみれ
『あなたの事で頭がいっぱい』
美しい紫の花束を差し出す
甘く切ない香りに包まれると、不思議と涙が零れた
胸の中の愛情が溢れ出したような感覚
電気くんは涙のあとにそっと口付けて抱きしめてくれた
私も抱き締め返すと、やっと地に足がついた気がした
これで何も気にせず電気くんに恋ができるんだね
街灯に照らされた影が一つになるのを眺めながら家に帰った