第3章 ここから始めて
〜上鳴side〜
荷物を乗せたタクシーでビジネスホテルに向かった。
咲良は疲れてしまったのかオレの肩に頭を乗せて眠っている
(やっぱ27には見えねぇな…童顔?
どう見ても21そこらだよな…)
伏せた目には長いまつげ、頬は初恋をしたようなバラ色、唇は小さくて形がよく
贔屓目にみなくとも、今まであったどの女の子よりもかわいい
こんな婚約者が居て、それでも浮気をするなんて相当な馬鹿だったんだろうな…なんて思いながら咲良を見つめていると
グラッと車が揺れて、停車した
金を払って咲良にそっと声をかけた。
「着いたよ、起きて」
『ん…んー』
目をこする咲良
あ、俺そういう仕草、好きっす、かわいい
ロビーは明るく綺麗なホテルだった。
「こんばんは、ご予約はされてますか?」
『してないんですが、大丈夫ですか?』
「大丈夫ですよ、お2人部屋でよろしいですか?」
『あ、いえ1人…「はい、ダブルでお願い致します」
俺が口を挟んで言うと、咲良にヒジで小突かれる
『ちょっと、電気くんは家帰りなよ
ちかいんでしょ?』
ヒソヒソと言ってくる咲良
「やだよ、一緒に居てぇもん
それならウチに泊まれば?」
『嫌だよ、親御さんになんて言うのよ』
「彼女」
『バカ、アラサーと付き合ってるなんて親が知ったら泣くから』
「んなことねぇよ
でも、家じゃ咲良のヤラシイ声聞けないからホテルがいい」
『ちょっと!』
ヒソヒソ声でそう言うと咲良は顔を真っ赤にしてしまった
満更でもなさそうなその表情に
「ダブルでお願いしますっす!」
俺が二本指を立ててフロントのお姉さんに言うと
咲良も堪忍したようにため息をついた
「明日は不動産屋だろ?早く家決めた方がいいし、朝イチで出ようぜ」
部屋についてジャケットを脱ぎながらそういうと、
『え?不動産まで付いてくるの?』と目を丸くする咲良
「もち」
親指を立ててみせると、彼女は呆れたような顔をする
そんな顔も可愛くて、そっと抱き寄せて、おでことおでこをくっつけた。