【跡部】All′s fair in Love&War
第15章 夏の魔物に連れ去られ(中編)
日がもうすぐ暮れようとしているようで、赤く鋭い光が差し込んでくるのに気付き目を覚ました。いつの間にかすっかり寝てしまっていたらしい…
先ほどのふわふわと身体を包む倦怠感は無くなっていて、手足も自由に動いたから起き上がる。もう七時とかかな、と窓の外を見てみると、そこはもうすぐに海。水面に反射する光がさっきまで寝ていた目に痛くて、カーテンをぴったりと閉じる。
あたしが起きるのを見計らっていたかのようにお手伝いさんが夕食を運んできた。聞くと、皆は食堂に集まって夕食を既に済ましたと言う。少しの寂しさを覚えながら、並べられたコース料理のような豪華な食事に手を伸ばす。つめたく冷やされたポタージュスープは絶品だった。
食べ終わったら内線でお呼びくださいね、すぐに下げに参ります――そう言ってお手伝いさんが出ていくと、また部屋はすっかり静かになった。
眠りに落ちる前、ヒヨが出ていった後。忍足やがっくん、ジロちゃん、ちょたが入れ替わり立ち代わりお見舞いに来てくれたのに、跡部は来なかった。もしかしたら寝てる間に来てくれたのかも――なんて、ポジティブには考えられそうにない。
体調が悪い時は何だか不安になる――ずっと寝ていたからか、そこまでお腹も空いていない。美味しいフルコースも半分ほどしか食指が動かず、お手伝いさんを呼んで下げてもらった。ごめんなさい、と謝ると品よく微笑んだお手伝いさんに、お大事になさいませ、と返され更に落ち込む。
部屋についていたシャワーを浴び、またベッドに潜り込んでみたものの、全く眠気が襲ってこなくてカーテンを開け、外を眺めてみる。優しい月の光が水面にキラキラと落ちて、夢の中の光景のようだった。窓を開けてみると昼間の暑さが嘘のように心地よい気温で、不快感は無い。
ざざ…と、波が砂の上を滑る音。それに混じってサクサクと、砂の上を歩くような音が聞こえ、月の光しか照らすもののない砂浜の向こうに目を凝らす。
そして足音の主の正体を確信し、ベッドからするり、と抜け出した。