【跡部】All′s fair in Love&War
第15章 夏の魔物に連れ去られ(中編)
「それより、ね。あとべにも、あやまった?」
跡部は、決して部長だって事に胡座かいたり、驕ったりしてないよ。今日だって先に別荘に来て、あたし達の為に環境を整えて、ついでにテニスもきっとしてたと思うんだ。だって、誰も居なかったはずのコートには既にネットが張られて、準備万端だったんだよ――誰よりも努力家で、誰よりもテニスを愛していて、この部のことを大事に考えている筈の彼を思う。
宍戸もそれは分かっているようで、あぁ、と頷いた。
「跡部に言われたのは、俺様より松元に謝りな…って事だったぜ」
お前ら、思考回路が似てるんだな――そう言われて、嬉しいやら恥ずかしいやら。赤くなった顔を隠すようにシーツに埋もれると、まだあたしが身体が辛いと思ったのか、宍戸がもう一度謝罪の言葉を口にして、部屋を後にした。
急に静かになる部屋に、何処か不安になる。するとまた響く、今度は力強いノックの音。もしかして――と何処か期待する、しかし入ってきたのはヒヨだった。
そんなあたしの顔色を読み取ったのか、俺で悪かったですね――と毒を吐くヒヨ。
「なにいってんの、ありがと。心配、かけたよね」
「全くですよ。いつも俺たちに口酸っぱく水分補給だの、体調管理だの、煩い人が倒れてちゃ世話ないですね」
毒々しさの中にあたしを心配してくれるような言葉が混じり、いつも通りの物言いに苦笑しながら、嬉しくて――ありがと、ともう一度言う。ヒヨはあたしをじっと見て――何故かはぁ、とため息を零し。お大事に、と言うと部屋を出ていった。