【跡部】All′s fair in Love&War
第14章 夏の魔物に連れ去られ(前編)
「松元様、どうぞ」
「あ、ありがとうございます!」
お手伝いさんがにっこりと微笑みながら冷えたグラスを手渡してくれる。ここまで来るのも跡部家の用意してくれたバスだったから、正直そこまで疲れてもいない――が、少し外に出ただけで体力を削られる暑さにすっかり参っていたから、有難く頂く。
大きな氷の入った水には、色とりどりの柑橘類が浮かんでいる。口にすると、柑橘の匂いや風味が水に移っていて、爽やかだ。――所謂フレーバーウォーターと言うやつよね、何から何までオシャレだ、跡部家。
「さて、これは非公式の合宿だから特にスケジュールなんて組んじゃいないが――テメェら、どうするよ…アーン?」
グラスが空になるのを待って、跡部が皆に問いかける。非公式、という言葉に皆が目を輝かせた。
「まずは海だろ!初日から練習なんかしてらんねーよ!」
「…海、ね。他に案がある奴はいるか」
「何言ってんだ跡部!此処には練習に来てんだろ!?」
声を荒らげたのは宍戸。そのままやる気あんのか、と発案者のがっくんにまで噛み付いている。
「まぁまぁ宍戸、言うても今日は初日やしな」
「宍戸ぉ、暑いからってカリカリし過ぎだしー」
忍足やジロちゃんが苦笑混じりに宥めても、宍戸はイライラとした様子で舌打ちをする。それをオロオロしながらちょたが見守っている。
「遊びたいなら、お前達だけで遊んでればいいだろ!俺は走って来るからな、いいだろ跡部!!」
「…あぁ、迷ったりすんなよ。スマホは持ってけ。荷物は運ばせておくから、そのままでいいぜ」
跡部の言葉を最後まで聞こうともせずに、宍戸は髪を後ろに縛ると、荒々しく玄関を閉めて去っていく。
「…何あれ、どーしたの宍戸」
「さぁ、千花ちゃん…分からないけれど、ジロちゃんの言う通り暑さでやられてるんじゃないかなぁ?」