【跡部】All′s fair in Love&War
第14章 夏の魔物に連れ去られ(前編)
「海だーーーっ!!!」
「やっほーーーー!!!」
「ちょお、松元!岳人!山とちゃうんやから!」
すっかり浮かれているあたし達が立っているのは、跡部家のプライベートビーチへの入口だ。そして背後に目を移すと、何とも可愛い白亜の洋館。青い空、白い砂、潮の混じった風、蝉の声が煩いけどそんなの最早BGMに過ぎない!
「おいお前ら、遊びに来てるんじゃねぇぞ!激ダサだな」
「まぁまぁ、宍戸さん!皆さんが浮かれる気持ちも分かりますし…」
「もー、分かってるわよ宍戸!固いこと言いっ子なしよっ」
――何せ今日から待ちに待った、夏合宿なのだから!
「よぉ、騒がしいからすぐに分かったぜ」
「あ、跡部!どーもお招きありがとー!」
前乗りしていた跡部が、洋館の窓から姿を現した。白い石造りのバルコニーの縁に凭れながら見下ろす姿は、何処かの王族のように決まっていて笑えてくる。
「開けさせるからとっとと入りな…遠路遥々ようこそ、我が別荘へ」
まるでそれが呪文であったかのように、開く大きな玄関。並んでいるお手伝いさんたち、赤い絨毯が敷かれたホール、非日常が矢継ぎ早に襲ってきてテンションが振り切れそうだ。トントン、と爪先を打ち付け砂を払い、足を踏み入れる。奥の大階段から跡部がゆっくりと下りてくる。
「まずはこいつらに冷たい飲み物を出してやってくれ」
――畏まりました、と一礼をしお手伝いさんたちが中に引っ込んでいく。そこに残ったのはいつも通りのメンバーだけ。
跡部に、忍足。浮き足立って地に足が着かない様子のがっくん。既に寝てるジロちゃんと、それをおんぶする樺地、そこに付き添う茉奈莉ちゃん。宍戸にちょた、ヒヨ。
三年生が大会を終えて座を退くにあたって、来年度からレギュラーになる面々と補欠メンバー、そしてマネージャーが今回のメンバーだ。もう一人のレギュラー、タッキーは家の都合で欠席だとか――なんとも勿体ない。