【跡部】All′s fair in Love&War
第13章 幕間に交わす秘密のお話
思い返せば昔から、だ。
物心ついてから本気で怒られた、注意されたような記憶が無い。可愛いね、賢いね、と褒めそやされ続けて、照れる事も覚えなかった。私がどう振る舞えば周りが喜ぶか、考えなくても分かっていた。
両親は幼い時から忙しく日本中を飛び回り、家には祖父母と自分だけ。祖父母も両親も凄く私を甘やかしてくれたし、私もそれに応えていたけれど、自分から甘えたことなどあっただろうか?
我儘を言ったら困らせる…なんて思考ではなくて。我儘が浮かばない。欲求が湧かないのだ。
守河さんって、お人形みたいで近寄り難い――と、クラスメイトが言っているのを聞いたことがある。自分でもその通りだ、と思ったし、特に悲しいとも思わなかった。
惰性で過ぎていく毎日。張り合いは無いけど、不満もない。放課後も習い事であっという間に時間は過ぎるし、弄ぶ暇も無い。
そんなある日だった、世界を変える出来事が起こったのは――
「…あなたどうしたの、こんな所で」
帰り道の細い路地で、蹲って泣く女の子。もう日も傾いた夕方、流石に放っておけず声をかける。ごしごしと目を擦り顔を上げたその子は、随分そうして泣いていたのだろうか、目の端を真っ赤にしている。
「パパとママとけんかして、おうちを出てきたら道に迷って…帰り道が、分からなくなっちゃってぇ…!!」
「ちょ、ちょっと…泣かないで、ね?そうだ、交番まで行ったらきっとおうちがわかるわ…一緒に行ってあげるから」
彼女が泣き止むよう、いつも通りの笑みを貼り付けてそう言うと。安心したのか、彼女は涙を流しながらも、にこり、と微笑んだ。
元来の優等生ぶりのせいで、また面倒なことになった…そう内心思いながら、先にたって歩き出すと彼女も着いてくる。