【跡部】All′s fair in Love&War
第11章 秘密は砂糖より甘い(前編)
「癪だけどいつも世話になってるし、チョコ渡すくらい、普通よね、ふつーふつー、」
同じクラスだし。同じ部活だし。言い訳をどんどん積み重ねながら調べたそのショップは銀座にあるという。茉奈莉ちゃんについてきてもらう?――いやいや、跡部への贈り物を買いたいのだ、なんて。口が裂けても人に言いたくなかった。
銀座にあるそのショップは、どう見ても中学生が独りで入る雰囲気ではなかった。音もせず開いた自動ドアに、おずおずしながら店内に入る。店員さんがいらっしゃいませ、と何事もなく声をかけてくれた事に安心しつつ、ガラスケースに敷き詰められるように並んだショコラにほお、とため息を漏らした。
「きれー…」
「バレンタインの贈り物でしょうか?」
時節柄、同じ目的のお客が多いのだろう。自分からは言い出せる気がしなかったから、店員さんの声かけに感謝しつつ頷く。
「どれにされるかはお決まりでしょうか?」
「いえ、まだ…何も、」
「では、宜しければお相手様のお好みなどをお伺いして、お手伝いさせて頂きます」
――お相手、
何の他意も無い店員さんの言葉に、心臓が跳ねる。買うだけでこんなことでは、果たして渡すことなど出来るのだろうか。思わず自分で自分に苦笑した。
「その人は、甘いものが苦手なんです。でもここのビターチョコレートは好んで食べているようなので」
「左様ですか、大変光栄です。では、ビターな物が主になっているこちらの詰め合わせは如何でしょうか?」
――こちらはオレンジピールが入ったガナッシュをビターチョコでコーティングした物です、またこちらはチョコには馴染みないと思われるかも知れませんが生姜を使い…などと、淀みない店員さんの説明を頑張って聞こうとするも、途中で頭がパンクしてしまった。全て美味しいことには間違いないのだろう。そしてビターチョコだ、大丈夫。
――ではそれで、と答えると、すぐに包装に取り掛かられた。ゴールドの包み紙に、特徴的な濃い青のリボンがかけられる。値段に少し狼狽しつつ、もう今月も半ばだ、ええい儘よ!と勢いで支払いを終え、何とかショップを脱出したのだった。