【跡部】All′s fair in Love&War
第11章 秘密は砂糖より甘い(前編)
はぁ、と白い重たい息を吐く。
その替わりに入ってきた、冷たい冬の空気を肺に貯めた。
深呼吸でもしないと、落ち着いてなんかいられない。
恐らく日本中の女性殆どがあたしと同じ気持ちだろう、何せ今日はバレンタインデーなのだから。
何処ぞの製菓メーカーが始めた商魂逞しい行事だ、と聞かされようと。皆が進んで踊らされているバレンタインデー、あたしもその一員だった。とは言え、家族や友達以外に用意するのは、中一になった今回が初めて。
手提げ袋の中にはテニス部でお世話になっている正レギュラーの皆、一年部員で特に仲の良い数名、毎年交換している茉奈莉ちゃんへの贈り物と、そして、小さいが一際目を引く、美しい包みが一つ。
「…うぇ、苦い」
「松元にはまだ、この深い味わいが理解出来ねぇだろうなぁ」
揶揄するように笑う跡部を睨みつけながら、あの日食べていたのは、とびきりビター味のチョコ。
少しの糖分が身体の疲労回復にいいのだ、そして苦味が脳ミソを叩き起してくれる――と。その時跡部は言っていた。
跡部が甘いものを食べている所なんて、滅多に見かけない。それなのに珍しくチョコを頬張っていたものだから、あたしも気になってブランドの名を聞いていた。それをふと、バレンタイン前に思い出してしまったのだ。