【跡部】All′s fair in Love&War
第10章 Season of Love
「っふ、う、ぅーーーーー…!」
握りしめた手は声を抑えることも、大粒の涙を拭うことも出来ずにいた。涙どころか嗚咽も、汗も鼻水までも零れていそうな程。あたしはまるで子供のように声を上げて泣いた。
跡部はちらり、とこちらを見たっきり、朝焼けに視線を戻した。まるであたしが泣くのを見透かしていたかのように、平然としていた。
一緒に過ごした二年半、跡部はずっと、一番強かった。それでいて、一番努力していた。それは皆の前でも、一人の時も、あたしの知らない所でも。
跡部を慕って負けじと切磋琢磨する、皆の居る氷帝が一番強いと、信じていた。皆の悲しむ顔なんて、跡部の立ち尽くす姿なんて、見たくなかった。
それからどの位経っただろうか、少し落ち着いてきてすん、と鼻を啜ると、跡部からハンカチが差し出される。きちんとアイロンの当たった、薔薇の刺繍が施されたハンカチ。
「…ありがと」
「ひでぇ顔してるぜ」
「でしょうね」
――洗って返すね、とそれを大事にポケットにしまう。涙を拭ったハンカチからは、ほのかに薔薇のコロンの香りがしていた。
「跡部は…泣かないの?」
「…アーン?俺様がか」
あたしが泣き止んだのを見て、踵を返し歩き出そうとする跡部に問いかける。最後の試合の後も、跡部は泣いていなかった。あの忍足や宍戸、茉奈莉ちゃんまで涙ぐんでいたのに。
「俺様のテニスは終わりじゃねぇ、これからも続いていく。あの試合はただの一区切り、通過点だ」
「…でも…!」
跡部の言うことも分からなくは無い。氷帝の生徒はその殆どが、特別な希望が出されない限りは高等部に進学する。そして皆、きっとテニスを続けるだろう。それでも――
「あたしは今、泣いてやっとスッキリした、」
あたしも、あの試合のあと泣けなかった。何処か夢や幻のような感覚だったから。それでも、時間が経って押し寄せてくる現実に押し潰されそうだった時に、こうして昇華することが出来た。
「跡部の気持ちの整理は、どうやってつけるのっ…」