【跡部】All′s fair in Love&War
第10章 Season of Love
朝だから流石に涼しいな、と思っていたのに。額にじわりと汗が滲んでくる。跡部がペースを落とさないのが悔しくて、3段の差が縮まらないように意地になって足を動かし続ける。
この街は丘を切り開いて造られているから、たまにあるアップダウンは大きい。50段も上っただろうか、やっと終わりが見えた。上りきった先は少し開けて、広場のようになっている。
膝に手をついてはぁ、と大きく息を吐き、呼吸を整えようとしていると。上る前と何も様子の変わらない跡部がゆっくり上ってきた。
「この位でバテるとはな、運動不足なんじゃねーの…アーン?」
「う、うっさい…ここ2日ほど家でダラダラしてたからよっ」
そう睨みあげながら言うと、跡部は何故か少し嬉しそうに笑った。
「そうかよ、まぁペースを落とさなかった点については評価できるぜ」
言いながらまた歩き出す。――変なやつ、と思いながらあたしも律儀に着いていく。
木々の生い茂る遊歩道を歩きながら、跡部がお気に入りの腕時計を確認していた。あたしもつられてスマホを見る――5時5分。
さぁっと風が前から吹いてくるのを感じる。
もうすぐ林を抜けるのかな?
そう思った、直後、
「…もう、三分もしない内に日が昇るぜ」
跡部の言葉に、何も返せないまま。広がる光景から目が離せない。
ぱっと突然開けた高台から、見下ろす街並み。
空は青と白と、黄色のグラデーション。
強い日が地平線の向こうから漏れて、光のシャワーのようだった。
「俺様の家の裏だから、よく自主トレに使っていた階段だ」
言葉通り、眼下には跡部の家も見える。
「夏の日の出なんてガキの頃以来だぜ…冬なら日の出が遅いから、毎日のようにここから見ていたがな」
毎日、日が出るくらいの早い時間にここに来ていたの?きっと来るまでには、あの長い階段を何往復もしていたんだろう。そう思い至った時にはもう、何もかも手遅れだった。