【跡部】All′s fair in Love&War
第10章 Season of Love
そこからは驚く程早かった。
十分もしない内に、あたしは着替えて近くのコンビニまで来ていた。
雑誌コーナーで本を手に取ると、店員さんがこちらを見てくるのがガラスに写っている。
――もう一応朝なんだし、補導とか言わないでよね…!?
そうやきもきしていながら、本を広げただけで読みもせず外を見ていると。見慣れた姿が駐車場の向こうに見えたから、本に目を移す。そう、まるで本に熱中しているみたいに。何も待ち焦がれたりしていませんよ――と。
コンビニに入った跡部は、ポカリを二つ買って、こちらを見てくる。ちら、と目が合うとそのまま黙ってコンビニを出ていくから、急いであとを追う。
「オラ、飲みな」
ぶっきらぼうに、しかし受け取りやすいようにふわりと投げられたボトルをぎりぎりの所でキャッチして。ありがと、と呟き蓋を開けた。
思えば、起きてから何も飲んでいなかった。―ただ自分が飲みたかったから、ついでなのかも知れない。けど、こういう気遣いが出来るのがいつも凄いと思う。
跡部は振り向くこともなく進む。何処か目指している場所があるんだろう、と思ったから何も言わずついて歩いた。跡部の歩幅はあたしより大きい。歩くのも早い。それでも間は開かない。付いてこい、と言われてるのも一緒だ、と自惚れるに足りた。
空はだんだん色を変えていく。夜と朝の間に居るようだった。歩いている人は無く、たまに新聞配達のバイクとすれ違うだけ。電気がついている家もほとんど無い。
昔見た映画を思い出した――荒廃した世界で、カップルだけが取り残される話だった。新天地を探して、あの二人もひたすら無言で歩いていた――
「上れるか」
久々に声をかけてきた跡部に、顔を上げる。目の前には嫌気がさすほど長い階段。つっかけだけど、歩きやすいものを履いてきて良かった…そう思いながら頷き、足を踏み出す。3段ほど空けて、跡部も上がってきた。