【跡部】All′s fair in Love&War
第35章 恋と戦争に手段は問わない(前編)
そして宍戸の後ろからチラチラと見える、所在なさげな顔に気付き苦笑した。
「ちょた、ありがとね」
「松元さん…俺の方こそ、有難うございましたっ…」
震える声が可愛くて、はるか頭上にあるちょたの頭を撫でようと手を伸ばす。少し背を曲げて貰うと漸く届いて、ふわふわの髪の毛を弄ぶ。
「どうせ、宍戸と練習なんかで一緒なんでしょ?宍戸の事、宜しくね…あと、ヒヨの事も」
もう言葉も出ない様子で、ぶんぶんと頷いてくれるちょたを、宍戸が引っ張っていく。時にはっとするほど大人っぽくて、でも実は幼くて。優しさに溢れたちょたは、きっとヒヨとも上手くやっていけるだろう。
「…アイツ、泣きすぎだろ」
「先輩としては嬉しいものだよ?…ヒヨ、昨日は有難う」
次にやってきたヒヨは、とうとう泣き出したらしいちょたに、呆れたような表情を浮かべている。でもその目の端が少し赤くなっているのに気付き、こっそり笑った。プライドが高くて、泣けないんだろうけれど、寂しいって思ってくれているのが伝わってくる。
「松元さん、俺が言いたいことは昨日全部言いました」
「…うん」
「頑張ってください」
頑張ってって、どういう意味で?なんて、聞きかけて、でもそんな雰囲気じゃないから曖昧に頷く。手を差し伸べられたから握り返す、その手は意外と大きくて、熱くて。じわりと伝わってくる熱にまた涙腺が緩む。
「ヒヨも、頑張ってね」
絞り出す様なその声に、力強くはい、と答えてくれるヒヨが頼もしくて、今まで可愛い後輩だったのが、やけに格好よく見えた。
ヒヨと握りあった手を離す。辺りをくるり、と見渡すと、輪の外で支え合う大好きな2人が目に止まった。
「茉奈莉ちゃん、ジロちゃん!」
駆け寄ると、茉奈莉ちゃんはジロちゃんに促されるように、俯いていた顔を上げた。真っ赤になった目が痛々しくて、でも嬉しい、なんて思う。
「茉奈莉ちゃん、昨日は送ってくれて有難う…ううん、昨日だけじゃない、ほんとに、いつも有難う」
「千花ちゃんっ…」
ぎゅ、と抱き合う。ふわふわといい匂いがする、女の子らしい茉奈莉ちゃんはいつまでも私の憧れだ。その身体を抱き締めたまま、ジロちゃんと向き合う。