【跡部】All′s fair in Love&War
第35章 恋と戦争に手段は問わない(前編)
予約通りに家に来てくれた、タクシーに乗り込む。お父さんとお母さんも搭乗口まで来てくれるらしく、一緒に空港に向かう。車窓から見える空はやはり抜けるように青くて、見慣れた景色は何処か違うように見えた。
所々に見える名前も知らない桃色の花に、春を感じる。どうせなら桜も見たかったな、なんてぼんやり思いながら、どんどん景色が流れていくのをただ眺める。
昔通っていた小学校の辺りを通り過ぎ、氷帝の近くも掠めて、試合で何度か来たことのある、学校の隣も通った気がする。そうして気付いた時にはもう海沿いを走っていて、段々と空港らしき大きな建物が近づいて来るのに、内心ため息をつく。
望んで行くはずの留学がこんなに心を重くするなんて、なんだか両親に申し訳なくて、更に心が沈んでいく。ぼんやり物思いに耽っている内にも車は進んで、気付けばもう目的地だ。
お礼を言ってタクシーを下りる。空港は近未来的で、現実味が無い。荷物を持って先を進む父の後を追う。手続きは事務的に進んで、どんどん建物の内部へと進んでいく――後戻り出来ないのに、逃げ出したい気分に駆られて、母の手を握る。ふわり、と笑って握り返されて、また一歩、漸く重たい足を進める、その繰り返しだった。
やっと一通りの手続きが終わり、重たい荷物からも開放されたロビーで。見慣れた顔達を見つけて、また泣きそうになった。両親もそれに気付き、皆に軽く会釈をして、先に搭乗口で待っている、と私に声をかけ去っていく。
夢の中のような心地で、ふわふわとした足取りで、皆の方へ一歩ずつ近寄っていく、今、私はどんな顔をしているのだろう。跡部に私は、どんな風に見えているのだろう。
まだ跡部の事を真っ先に考えてしまう自分が、女々しくて、弱々しくて、嫌になる――