【跡部】All′s fair in Love&War
第35章 恋と戦争に手段は問わない(前編)
ぴぴぴ、と、アラームの音で目が覚めた。次に目覚める時は、機内なんだな、なんて起き抜けの頭でぼんやりと考え、アラームの設定をオフにする。時間に余裕が無いのは辛うじて覚えていたから、とりあえず、とベッドから立ち上がった。
薄くカーテンの間から射し込んでくる光が、今日もお天気だと教えてくれて、それだけで気分が少し晴れる。
身支度を終えてリビングに下りると、いつもより早い時間なのに良い匂いがしてきて。ニュースの音声も聞こえてくるから、もう両親は揃って起きているんだな、と悟って、ただそれだけでじんわりと涙が滲んできた。
心配をかけちゃダメだ、と目を拭って。リビングの扉を開け、おはよう、と声を上げる。二人が振り向いて、ほんの少し、驚いたような表情をした――何だろう?
「千花、酷く目が腫れているから冷やしなさい」
ぱたぱたとお母さんが氷を持ってきてくれたのを受け取り、手鏡を確認する――そして、赤く膨らんだ瞼に驚いた。
「皆は今日も見送りに来てくれるんだろう?また泣いてしまうな」
「…かもね」
ほんとに来てくれるのかな、なんて、昨日の跡部の様子を思い出して、不安が過ぎるも。食卓についたお父さんとお母さんにそんな様子は気付かれたくないな、と曖昧に笑ってみた。テレビの中のお天気お姉さんは、今日も一日晴天です、なんて満面の笑みで、私の嘘くさい笑顔とは全然違う。
「それにしても、良いお友達を沢山持って良かったわね」
「入学して初めは茉奈莉ちゃんべったりで、どうなる事かと思ったけど、杞憂だったな!」
「…えぇ、そんな事心配してたの?」
でも、皆の事を思い出すだけで込み上げてくる笑みは、本物に違いなくて。そして、今日もきっと皆来てくれるのだろう――勿論、跡部も。
「だから、大丈夫よ。千花なら、アメリカでもきっと良いお友達が出来るわ」
「…うん」
「また、お父さんにも紹介してくれよ」
「…うん、そうだね」
ただでさえ腫れぼったい瞼にまたじわり、と涙が溜まってきたのを感じて、急いでご飯をかき込む。そして心のどこかで、皆より良い仲間なんて、世界の何処にも居ない、なんて小さく思う自分に首を振った。
いつだって、私はそんなネガティブな思いを抱えてそれでも、前に進んで来たのに。