【跡部】All′s fair in Love&War
第4章 後悔先に立たず、且つ留まらず
「うぅ…ねみぃ」
「岳人、凄いクマやで?」
「そーなんだよ、あんまり寝れてなくてさ」
あれから、二日も経っただろうか。俺は未だに夢の中にいるような感覚だった。松元の声を聞く度ふわふわとする。夜は、夢の事が思い出されて寝付けない。練習中も我慢しきれず大欠伸をかますと、跡部と目が合ってしまった。
「げ、」
思わず声が出る。ランニングでも言い渡されるだろうか、それとも地獄の筋トレ?近付いてくる跡部に身構えると、思いも寄らない言葉が掛けられた。
「向日、今日はもう帰れ」
「…へ?いや、でも、」
「アーン?この俺様が帰って良いと言っているんだ、有難く受け取って休みやがれ」
こんな事ってあるのか。空から槍でも降って来るんじゃないか。侑士にも良かったやん、かえりー、と言われ、呆気に取られたままコートから出ると、待ち受けていたかのように松元が走り寄ってきた。
「がっくん…あの、大丈夫?」
俺の態度はあの日からぎこちない。それを気付いているのか、少し遠慮がちに、ここ最近の松元は殊更俺の事を気にしてくれていた。
――そんな顔をさせたい訳じゃ、無いのに。
「あぁ、別におれは何ともないんだけどさ?跡部が帰って休めって言うからよー」
「あ、やっぱり?跡部ってば、あぁ見えてがっくんのことすっごく心配してたんだよー!最近心ここに在らずだ、なんて言ってさ」
――跡部が?驚いて跡部を見ると、こちらを丁度見ていたようですっと視線が逸らされた。そして、松元はというと…
「松元、あの時の、顔だ」
「…え?がっくん、何か言った?」
俺と同じように、跡部を見つめる松元。あの時夢で見た笑顔と同じ、モヤモヤの中に隠れていた優しい表情を思い出す。そして同時に、俺には向けられることの無い顔なんだ、と漸く気付く。