【跡部】All′s fair in Love&War
第4章 後悔先に立たず、且つ留まらず
――がっくん、
優しい声が俺の名前を呼んで、腕を絡ませてくる。俺はそれを受け止め、ニッコリと笑う。可愛くて、儚くて、守りたくて…大好きなんだ――
「って、はぁあああ!!!?」
――そこで、目が覚めた。
「そりゃエェ夢やったなぁ!」
「ほんとだぜー、せめてその子の顔が見たかったな!ぜってぇカワイイ子だったと思うんだよなぁ」
「へぇー。そりゃ、岳人が深層心理で好きな子やったりするんちゃう?」
朝の通学路、今朝見た夢を早速侑士に報告する。お陰で睡眠時間は短くなったけど、寝覚めは最高で気分は良かった。
「好き…とかは正直よくわかんねーんだけど…俺と同じくらいの身長でさー、優しく『がっくん』って呼んでくれたんだぜ!」
同じくらいの背の高さなのは気にしない。俺、まだまだ伸びるし――夢から覚めた時、まずはそう自分に言い聞かせた事を思い出し苦笑する。
「黒い髪の毛がさらさらっと風に靡いててさー…夢の中だからかな、モヤモヤで顔はよく見えなかったんだよなぁ」
声には聞き覚えあんだけどな――そう、あの甘く優しい声は、脳髄を震わせるような声は、俺の中に確かに残っていた。そう語り続ける俺の顔をじっと見て、侑士は何か考えている。
「岳人とおんなしくらいちっこくて」
「ってめ、ちっこい言うな!くそくそゆーしっ」
「んでもって、がっくんって呼んだん?」
――それ、一人思い当たる子おるんやけどなぁ。そう侑士が声に出したのと、ほぼ同時だった。
「あっ、がっくーん!おはよーっ!!」
夢の中のあの子だ――この声、聞き間違えようがない。本気でそう思った。
「…松元」
「忍足もおっはよー」
――岳人の、好きな子なんちゃう?そんな侑士の言葉がぐるぐると回る。え、だって、松元は同じ部活で、マネージャーで、仲良くしてる女友達で――
「あれ?どーしたのがっくん」
松元が俺の顔をじっとのぞき込んでいる。――いやいやいやいや、近い近い!いつもなら普通なのに、何も気にしない距離なのに。
「ちょっと俺、用事思い出したから!先行くな!!」
堪らずそう叫んで走り出す。松元の声が頭から離れない、そして、夢の中の彼女と完全に一致していた。