【跡部】All′s fair in Love&War
第32章 おわりのそのまえに(中編)
跡部の声に、はっと視線を上げると。叫ぶのが早いか、それとも動くのが先だったのか。松元の背に立ちはだかり、飛んできた球をラケットではじき返すその瞬間だった。
そして跡部は、物凄く怒った顔で振り返る。その剣幕に、思わずぞくり、と背中を悪寒が駆け抜ける。
「コートに入るなら、ボールに背を向けるんじゃねぇ!ジロー!お前がついていながら何してやがる!」
「ちょっと、ジロちゃんは関係ないですっ…あたしが不注意だっただけで、そこまで言う事無いでしょう!?」
「お前に非があることは確かだろうが、庇ってやった俺様に対してその物言いかよ、松元。ジロー、松元もマネージャー志望だと言っていたな。こんな無礼な奴に、格式ある我が氷帝テニス部のマネージャーが務まると思うかよ、アーン?」
厳しい言葉に、何も言い返せず息を呑む。彼女達はテニスの事なんて全く知らないんだよ、怒ったら可哀想だ、そんな考えが頭を巡り、しかし突然の事で言葉にならない。
そして隣に座る守河が、ぐっと身体に力を込めたのを感じた。これ以上二人の心証を悪くしたくなくて、何か言わなくちゃ、と口を開こうとした、まさにその時。
「…黙って聞いてたら、随分よねっ…突然相手のことをお前呼ばわりする奴は、礼儀を知ってるわけ!?助けてくれたのは有難う!あと、あたしの代わりに危ない目に合わせてごめんなさい!お礼とお詫びが遅くなったのも、大変失礼しましたっ!!」
松元が跡部をぐっと睨みつけながら、言い放った言葉。呆然とその顔を見つめる事しかできない。先程まで守河に茶化されながら、弄ばれていた様子とは全く違う。でもそれは、守河にも思いもよらない姿だったようで、ぽかりと口を開けたままの守河。
そして跡部と松元のやり取りは続く。跡部は意外にも、松元の事をいたく気に入ったようで。その場で入部届けを書いて帰れ、なんて言っている。めくるめく展開に頭がついていかなくて、隣の守河をまた見つめる――そしてその表情に、はっとする。