【跡部】All′s fair in Love&War
第32章 おわりのそのまえに(中編)
そして、待ちに待った放課後。今度は俺が守河の手を引いて、部活へ向かっていた。周りできゃーきゃー騒いでいる女子生徒の列を割って、コートに入る。跡部に許可も取ったし、何の問題も無い。
「こっちこっち、守河!確か、跡部は奥のコートにいるって言ってたなー」
「あとべ?」
「そそ、俺の幼なじみ!すっげーやつなんだ!」
この学校の全員が名前を知っててもおかしくないと思っていたくらいなのに、守河は跡部の事を知らないらしい。それにも少し嬉しくなってしまった俺は、自分が持っていた執着心に少し驚きながら、奥へ奥へと進んでいく。
「いたいたー、アイツが跡部だよ」
俺の指の先には、自分より大きな体の先輩を簡単にあしらってしまう、自慢の幼なじみがいた。跡部は一旦打ち合いを止め、こちらに来てくれる。
「よお、ジロー。ソイツが言ってたマネージャーかよ」
「おつかれ、あとべっ!そーだよ、同じクラスの守河!」
どう、ちょー可愛いだろ。そう言いたい気持ちをぐっと飲み込んだ。跡部はそんな俺に気付いているのか、笑いを堪えるような表情で守河を見ている。
「ジローがいいなら、いいんじゃねーの」
「サンキューあとべっ!」
試合にコートに戻っていく跡部を見送りながら、守河を見やると。まるで教室にいた時のような、少し冷たくも見える表情を浮かべていた。――何故?不安になって、守河を誘いベンチに並んで座る。跡部のプレーの解説なんかをしていると、守河はいつも通り優しく受け答えしてくれて、笑ってくれるのに、それ迄とは空気が違ってしまったような感覚。
どうしよう、と所在なくふと後ろを向くと、知った顔がこちらの様子を伺うように立ち尽くしている事に気づいた。
「ねー、守河、後ろっ」
「…ん?あっ、千花ちゃんっ」
きっと緊張しているんだろう、松元が来てくれたからこれで解れるかな――そんな気持ちで声をかけたら、思いの外嬉しそうな守河の様子に少し驚く。弾む声、キラキラと輝く目、高揚して少し赤らむ顔。そんな表情には覚えがあって、ん、と違和感を感じたその時。
「おい、松元っっ!!!」