• テキストサイズ

【跡部】All′s fair in Love&War

第30章 はじまりのつづき(後編)




何日か前、送別会の打ち合わせついでに、榊監督に松元の留学の件を聞いた時。知らなかったのか、という監督の呟き一つに、何かが音を立てて崩れるような感覚を覚えた。

知っていて黙っていたミカエルに詰め寄り、その場で松元に連絡しようとして、何を言うつもりなんだ、と我に返る。

やっぱり俺はまだ子供で、行くな、とも言えないのだ、と分かっていた。それならそれで、一番応援してやればいい、帰ってくる場所になってやればいいと思ったのに、あいつからは何の連絡もなかった。



日吉とのやり取りに翻弄され、冷静さを欠き、寄りによってあいつに当たり散らした。今までも、何回も傷付けて泣かせてきたけれど、その度に自分でその傷を埋めてきた。今回は、それすらせずに放り出した。



この思いごと、放り出せる訳でも無いのに。



最後まで俺に「言わなかった」事こそが、「言えなかった」「言いたくなかった」事の証なのだと、今となっては分かっている。少し考えればわかる筈の事実だ――松元は愚図で、大事な事に限って口下手で。変な所で意地を張って、周りの空気を読んで、いつも煩い口を閉じるのだ。








「…なぁ、松元の事、泣かせてんなよっ…」
「向日…なんでテメェが泣くんだよ、アーン?」
「跡部、分かんねぇのか!?俺達みんな、松元に幸せになって欲しいって思ってる!」
「…分かっている、宍戸」

「分かってへんやん。なぁ、甘えとったらあかんで、松元に」
「甘えてるつもりはねぇよ、忍足」
「出来るもんなら、自分で幸せにしたりたいんやけどな。日吉みたいな勇気もないねん…アイツ、凄いわ」





昨日の奴らとのやり取りを思い返す。三年間寝かせ続けた思いは、随分と臆病にしまいこまれた。そして、愚かにも松元を傷付けた。

すぐに泣く程弱い癖に、それを見せまいと、痛々しく唇を噛み締める。赤く腫れた目を隠すように俯く。そして次の瞬間には、下手糞な笑いを浮かべる松元が、どうしようもなく好きだ、と改めて思う。そしてどうしたって手放せない、まして他の奴になんて渡せない、とも。

/ 252ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp