【跡部】All′s fair in Love&War
第28章 はじまりのつづき(前編)
「跡部様、聞いてらして?」
「…あぁ?
…すまない、ボーッとしていた」
さして興味の無い話が繰り広げられ、思いに耽っていた所を、急に現実に引き戻される。俺の周りには相変わらずぎゃーぎゃーと煩い女共が犇めき合っていた。はぁ、とため息をついただけで、きゃー、と耳ざわりな声が上がり、思わず眉を顰める。
俺様のこのオーラが惹き付けるのだから仕方がない、とは言えご苦労な事だ。話しかけてくる雌猫に適当に相槌を打ちながら、また頭のなかでは全く別の事――先程の英語の授業に思いを馳せる。
帰国子女だから、という全く面倒な理由で前に立たされ、簡単なスピーチをさせられる。良家の子息子女が揃っているのだから、皆言わずもがな最低限の英会話は出来るらしく、文系の我がクラスではより実践的な英語教育を行っていくらしい。
つらつらと英国での生活の事なんかを述べる。メモを取る勤勉なものが居ると思えば、話の内容なんてどうでもいいらしくただ俺の顔を見るだけの女もいる、その中で。あの女――松元 千花はなんとも言えない表情でこちらを見ていた。
驚嘆?羨望?嫉妬?悲哀?悔恨?全てが当てはまりそうな、しかし当てはまらないような、プラスともマイナスとも取れるその表情、なのに逸らされない視線。今までこちらをじろじろと見てきた雌猫共、そのどれとも違う、そんな視線を向けられる覚えがなかった。
授業が終わった後、俺様の顔に何かついてるかよ――なんて、軽口を叩こうと思ったが、また煩い女共がくっ付いてきて、阻まれる。そうこうしている内に、松元は教室を出ていってしまったのだった。