【跡部】All′s fair in Love&War
第25章 アンコンディショナル・ラブ(中編)
「まぁでも、後悔するじゃないですか、絶対」
「それはそうだけど、でも…」
「それ位の思いだって事ですか?」
「そ、そんな訳じゃない、けど、」
ヒヨの追求に、思わず唇を噛む。今日だけでもう何度目だろうか、涙が零れそうになるのを我慢しているとまた、ヒヨは大きな溜息をついた――ただ、今回は笑ったままで。
「だってっ、フラれるのは、誰だって嫌でしょ?」
「…まぁ、そうですね」
優しい光を宿した目が、こちらを真っ直ぐ見ている。意地悪なのか優しいのか、どっちなの、と混乱しそうになる――何故か目を合わせ難くて、俯くけれどヒヨは何も言わない。ややあって、おずおずと見上げると、相変わらず、見たこともない位優しい笑顔がこちらを向いていてはっとする。そしてヒヨがまたゆっくりと、口を開く――
「松元先輩、好きです」
「…は?」
「意味がわからかったなら、もう一度言いますけど」
ふるふる、と首を振る、むしろ、それしか出来ない。
「嘘だ、とか冗談だ、なんて思ってるんなら、幾ら先輩でも許さないですよ」
今度はこくこくと頷く。声が出せなくて、開きっぱなしの口が渇く。ごくり、と私の唾を飲み込む音が、やけに大きく響いた気がした。
頷いた私に、ヒヨは満足気に見える笑顔を浮かべる。
「フラれるって分かっていても、伝えたい事ってあるんですよ」
「そう、だね。ヒヨは、凄いね」
あたしには、無理だ――そう呟こうとした私の言葉は、押し付けられたヒヨの胸元で留まって、漏れることは無かった。抱き締められている、と気付き身を捩ってみるけれど、ヒヨの顔は私の肩口に埋められていて見えない。ほんの少しだけ伝わってくる震えに、今度こそ堪えきれなくなって涙が落ちる。
「ヒヨっ…」
「泣かないで下さいよ、泣きたいのは俺の方なんですから…松元先輩、俺にしとけばいいんじゃないですか」
「むり、なの、ごめんねっ…」
「…そんなの、知ってましたよ」
知っていた、と言う声色が酷く寂しげで。やわやわと、下がったままだった腕をヒヨの背に回す。お互い身体が冷えきって居たけれど、触れ合った部分は暖かかった。しかし、いつまでもこうしている訳にはいかない――ヒヨが顔を上げたのを合図に、身体を離す。