【跡部】All′s fair in Love&War
第25章 アンコンディショナル・ラブ(中編)
ふるり、と体が震え、日が落ちるに従って、少しずつ気温が下がっている事に漸く気付く。幾ら戻りにくくても、そろそろ部室に戻らなければ、体調を悪くしては明日からに差し支える――
その時落ち葉を踏む足音が背後から聞こえ――ほんの少しの期待を持って振り返る。いつもなら、こんな時に来てくれる人は決まっていた、のに。
「俺で、悪かったですね」
「…何言ってんの、ヒヨ」
予想とは違ったけれど、迎えに来てくれたんだ、と嬉しくて。心配してくれたの?と聞くと、ヒヨは少しバツの悪い顔をして、私の隣にどかっと座った。
「前も同じやりとりをした事、あったっけ?」
この会話に既視感を覚えて、笑いながらそう尋ねる。いつも興味無いって顔してる癖に周りの事をよく見てて、こんな時も心配してくれるのが、ヒヨだ。跡部が次期部長を託したその理由も、よくわかる。
「そうですね、松元先輩はいつも俺を待ってくれていないですから」
「…何、ヒヨ。今日、意地悪だね」
大きく溜息をつき、少し苛立った様子のヒヨに不安になる。そりゃそうだよね、折角の送別会の空気を悪くしてしまった。後輩の皆が、準備してくれたのに――
ごめんね、と言おうと口を開く、その先手を打つように、ヒヨが口を開いた。
「松元先輩、跡部部長に告白しないんですか」
「…は?」
思いもよらない言葉に、口をあんぐり開いたまま固まる私は、きっと間抜けな表情を浮かべている事だろう。そんな私を見て、ヒヨはうっすらと笑う。
「告白、しないんですか」
「…いやいや、意味が分からなかった訳じゃなくて。あたし、別に、」
「このままだと絶対後悔するじゃないですか、どうせ」
「あの、ちょっとヒヨさん?どうせ、って、ねぇ」
私が跡部を好きな事前提で話し続けるヒヨと、上手く会話が噛み合わず頭を抱えたくなる。全くこのままじゃ、話が前に進まない――
「フラれるの分かってて、告白なんて出来ない、でしょ?」
「あ、やっと認めるんですね」
「そうしないと終わらなかったでしょーが…!」
今日のヒヨは何だかおかしい、いつにも増して意地が悪い。何とも悪い笑顔を浮かべているヒヨに少し後ずさる、そんな所まで跡部から引き継がなくて良かったのに。