【跡部】All′s fair in Love&War
第24章 アンコンディショナル・ラブ(前編)
教室に入りカバンを机に置く。ぱらぱらとおはよう、と声をかけられそれに応える。三年間部活に勤しみ過ぎたせいか、クラスにそこまでの思い入れが無いな、なんてぼんやり考えながら、席につく。
時間が経つにつれ、少しずつクラスメイトが揃っていくけれど、跡部は来ない。卒業する側だとは思えないほど、式の運営に関わっているのだろう。中高一貫だからその境界は曖昧とはいえ、最後くらい解放してあげればいいのに、と思いつつ、やはり顔を合わせるのが躊躇われる。
そうこうしている内に担任もやってきて、廊下に並ばされた。A組だから一番最初の入場だ――その中でも、一番の跡部は未だだけれど。担任もすぐに跡部の不在に気付く。
「松元、跡部はどこに行った」
「さぁ…生徒会じゃないですか?」
困ったなぁ、と探すような素振りを見せる担任。一番に自分に聞いてくることが、少し擽ったくて、でも凄く、寂しい。
「…すみません、先生…、遅くなりました」
そこに、当の跡部が走ってきた。何事も無かったように列の先頭に立つ。少しだけ目が合ったような気がしたが、しかし列は前に進む。
殆どの人がそのまま氷帝に進学するのだから、卒業式に思い入れも何も無い、その中にあって。自分だけが後戻り出来ないところまで来てしまっているのだ、と暗鬱な気分になりながら。前を歩く跡部の表情を無意識に伺おうとしている自分は、何とも怖いもの知らずらしい。
それでもいつも通り、真っ直ぐ前を見る跡部の表情は、こちらからは見えなかった。
卒業式は恙無く、式次第通りに進む。卒業生代表の挨拶は、言わずもがな、跡部だった。入学したその日も、こうして跡部の挨拶を聞いていたっけ――でもその時は、跡部を認識していなかった。今ではこうして、きっと誰より神経を集中させて、彼の話を聞いている。
よく通る跡部の声は、体育館中に響き渡る。いつもながら、皆の心を掴むのが上手くて、皆が聞き入る中、私は一人少し、俯く。両隣から怪訝そうな視線を感じ、ぐっと涙を拭って、また視線を元に戻した。
いつも不思議と交わる気がしていた視線は、今日は全然、かち合わない。