【跡部】All′s fair in Love&War
第24章 アンコンディショナル・ラブ(前編)
式を終えて、後輩達が作る花道を通ると、自然とクラスごとだった列はバラけていく。そして、見慣れたメンバーが集まってきた。
「よぉ、松元」
宍戸は、まだ知らないみたい。
「松元っ!オレ、ボタンくれって言われちまったぜー!!」
「良かったやん、岳人」
「ってお前もうボタンねーのかよ、くそくそゆーしっ!!」
忍足とがっくんは、相変わらず。
「千花ちゃん…おはよ」
茉奈莉ちゃんは、ちょっと泣いてたみたいだ。私の為だろうか、と少し嬉しくなる。
「松元」
そして茉奈莉ちゃんの隣で、ジロちゃんは、険しい顔をしている。茉奈莉ちゃんを見ると、ごめん、と言うふうに手を合わせてこちらを見ていた。――ジロちゃんは、知ってるのね。
「松元も、泣いてたんかよ」
「えへへ、ほんのちょっと、ね」
笑うと、ジロちゃんは黙って、少し怒った顔のまま、私の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。少しだけ、痛いくらいの強さのそれに、ジロちゃんの気持ちが込められているようで甘んじて受け入れる。
「ごめんね、茉奈莉ちゃんの事泣かせちゃって」
「…まったく、その通りだしー」
誰よりも優しそうな見た目なのに、実は鋭くて、強いんだよね、ジロちゃんは。笑い合うと、昔より格段に大きくなった手はゆっくり離れていった。
そうこうしている内に、後輩達も集まってきた。いつも通り、卒業おめでとうございます、と。ぶっきらぼうに、しかし真っ直ぐ目を見て言ってくれるヒヨ。そして、なんで俺までっ…!とべそをかいているちょたは、どさくさに紛れてブレザーのボタンをもぎ取られたらしい。
「あーもう泣くななくな、デケー図体しやがって」
「ちょた、ほら。あたしのをあげるよ」
「松元さん…!有難うございますっ」
そんな宍戸にも、何気にもうブレザーにボタンは無く。やっぱり皆モテるんだな、なんて思いながら、ぼんやりと明後日の方向を見つめる。視線の先には女子生徒の壁、おそらくその向こうには跡部だ。
「ほな、荷物取りに行ってから部室集合し直そか」
ぼーっと空を見る私に気付いたのか、忍足が声をかけてくれる、それを合図に皆がバラけていく。しばらくそれを見送って、私も急がなきゃ、と我に返り走り出す。――相変わらず、跡部の姿は見えない。